夜明け前の 乳白色の霧が 立ちのぼる谷で 白樺の幹が 淡く浮かび 小屋の煙突が まっすぐ 吐息します 五分間だけ 立ち止まり 呼吸を整え 地図を閉じ 音に耳を澄まし 一歩目を 小さく出す そんな始まりが その日の ペースを 優しく 形作ります 水面の うすい 反射が まぶしく 靴紐を もう一度 締め直し 斜面の 斑の 雪を 避け からだの 内側の 温度に 注意し 声を かけ合い 無理を しない
小さな 広場に 露店が 並び 朝露を 吸った 花束と 香ばしい ライ麦パンが 交互に 匂いを 運びます 出会った 名前を メモし 持ち歩く 重さを 考えながら 今日は 二つだけ 選び お礼を 伝え ベンチで 半分こし 旅の地図に 新しい 目印を 加えます 紙袋の 擦れる 音を 聴き 背伸びを 一度 して 風向きを 確かめます
足裏で 柔らかな 苔の 弾力を 感じ 目線を 少し 下げたまま 数を 数えず 匂いと 温度で 時間を 測ります 十分歩いたら 二分だけ 立ち止まり 背景の ざわめきが 薄れていく 変化を 受けとめ ふたたび 小さく 動き出し 体調と 会話しながら 道を 進みます 手袋を 外し 風の 粒を 触って その場の ままを 受け入れます
All Rights Reserved.